なぜ就職するのか。なぜこの会社に就職しようとしているのか。
就職問題は、自分が今後どのように生きたいか、という問題にかかわってくることになります。それは、好きな仕事をしたいとか、安定した職場につきたいといった、職業と自分との相性についてだけの狭い問題ではありません。職業もふくめ、トータルに自分の生き方にかかわる問題なのです。
何をしたいのかわからない人は、自分が最低限納得できる労働条件、たとえば給与、休日、勤務地、あなたが女性だとしたら結婚後・出産後の処遇、などを列挙してみて、それを満たしてくれるところに、とにかく入ってみることを勧めます。自活していけるだけの条件を整え、その与えられた条件の中で自分に何ができるのか、それを日々模索するうちに自分がどう生きたいのか見えてくる、というのは大いにありうることです。もしその過程で、自分にとってより可能性のある職場をみつけたならば転職すればよいのです。
一番まずいのは、自分が何を実現したいのかわからない、という理由で就職活動からリタイアしてしまうことです。人生において実現したい目標があって、そのために職を選ぶという手順は、生き方のひとつの選択肢にしかすぎません。ましてや、それが万人にとっての最良の選択肢とは限らないのです。まず職について糧を得、その条件の中で自らの生きる道を探る、すなわち、今を大切にする中から未来を切りひらくという生き方もあり得ることを忘れないでほしいと思います。
また、就職に限らずすべての行動に共通することですが、大事なことは、「なぜ就職するのか」「なぜこの職業なのか」「なぜこの会社なのか」といったこの点をしっかり突き詰めておかないと、迷ったり、無為に過ごしたり、悔やんだりということになりかねません。
就職観、職業観とはどういうことか。お金をたくさん稼ぎたい、というのも一つの答です。他人から注目されたい、自分を高めたい、人に喜ばれる仕事をしたい、社会に役に立つことをしたい。いろいろあるでしょう。複数の答が組み合わさることが多いと思います。会社選びにしても、長期的に安定した会社、華やかな会社、挑戦しがいのある会社、自己実現の機会の多い会社、待遇が良く居心地の良い会社、社会貢献度の高い会社・・・等々いくらでも考えられそうです。
「長期的に安定した会社が良い」というのであれば、自治体にでも入ったほうがよいかもしれません。産業構造の変化は予想を超えるものがあり、20年前、30年前だったら、銀行、保険などが最も長期的に安定した業種というのが常識でしたが、今そんなことを言っても信じる人は誰もいないでしょう。
「挑戦しがいのある会社」というのも、一見りっぱではあるが微妙な就職観です。いつまでも挑戦しがいがあるかどうか、神様でも分からないというのが本当のところです。そもそも、「挑戦」という目標は自分で創り出すものであって、与えてもらいやすい会社、という考え自体が矛盾しています。「自己実現」も大事な職業観ですが、これすら「与えられるもの」という考え方が若い社会人の間には強すぎると感じざるをえません。どんな環境、どんな職場であろうと、すべては自分で切り開いていくものなのですね。そう考えると、「この会社でなければだめ」というのは、社会を知らない大学生の勝手な思い込みといって過言でないことが分かってくるはずです。
労働環境にしても良いに越したことはないでしょう。劣悪な労働環境で働くのは誰でもいやなものです。しかし巨大企業に就職して恵まれた環境のもとで営業課長から営業所長や営業部長と昇進した営業畑の中堅管理職が、いざリストラにあって転職しようにも実力を証明する術(すべ)もなく苦労してしまう話は珍しくありません。逆に厳しい環境のもとで営業に汗をかき、知恵を絞って顧客の絶大な信頼を得られたセールスマンあるいはセールスレディは、その実績、ノウハウ、顧客、自信いずれもが大変な財産であり、どこの職場、会社でも活かしうる性質の資産になるのだと思います。
社会的に貢献したいということを職業観として持つ人に対して、「反社会的な性格が感じられる会社」に入ることはもちろん勧められません。しかし、多くの学生にとって業種のいかん、優良企業か否か、などということは決定的に重要ではない、と申し上げたいと思います。いずれつぶれるであろう会社に就職したくはないのが人情というものですが、そうでなければ要は自分がその会社で成長できるかどうか、に絞られるのではないか。私と私の友人、知人たちの限られた経験から私は強くそう思います。問題は当人がどれだけ努力し続けるか、なのです。そう思って限られた就職活動に臨み、あるいは就職の決まった人は来年の入社に備えてください。

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